【税務の基礎知識(国際税務)】過大支払利子税制(平成31年税制改正含む)
2019/05/10
【過大支払利子税制(平成31年税制改正含む)】
・過大支払利子税制とは
過大支払利子税制とは、関連者間(親子会社間など)での過大な支払利子の支払いにより、所得を減少させる租税回避行為を防止するための制度のことです。
親会社が子会社に貸付を行う場合には、子会社が親会社に支払う支払利息は子会社の所得計算上損金の額に算入されます。
従って、その貸付額を過大な額にすれば、対価となる支払利息の額は当然に多額になり、その分だけ課税所得を圧縮することができます。
このような多額の支払利息を損金算入する方法を用いた租税回避行為が行われることを防止するために、過大支払利子税制という制度が設けられています。
なお、諸外国でも同様の税制が設けられている国は多いため(例えば、アメリカでは日本の過大支払利子税制と似たような「アーニングス・ストリッピング・ルール」があり、昨今の大幅な税制改正(いわゆるトランプ減税)によって新たな控除制限が課されています。)、日本の親法人が海外子会社に貸付けを行う場合でも、現地国で規制がかかる可能性がありますので留意が必要です。
・対象となる関連者等とは
過大支払利子税制の対象となる関連者等とは、その法人の発行済株式の50%超を保有している法人等(持株基準)やその法人を実質的に支配している法人等(実質基準)などが該当します。
また、持株基準や実質基準を満たす者による債務保証を受け、その法人に資金を供与する第三者等も対象となります。
・過大支払利子税制の適用
関連者等への支払利子等の額(関連者純支払利子等の額)が所得金額(調整所得金額)の50%を超える場合には、その超過額(超過利子額)が損金不算入となります。
なお、対象となる関連者等への支払利子等の額には法人の関連者等に対する支払利子等の額で、利子の受け手である関連者等の日本の法人税課税の対象に含まれないものをいいます。
つまり、日本法人間で貸付けを行う場合の利子の収受については、子会社で支払利息が損金算入されるものの、親会社では受取利息が益金算入されるため、過大支払利子税制の対象にはなりません。
従って、当税制の対象となるのは、日本に恒久的施設(PE)を有しない国外の関連者に支払われる利子ということになります。
・適用除外基準
以下のいずれかに該当する場合には、過大支払利子税制は適用されません。
・その事業年度の関連者純支払利子等の額が1,000万円以下である場合
・関連者支払利子等の額の合計額が総支払利子等の額の50%以下である場合
ただし、この適用除外の適用を受けるためには、確定申告書に一定の書面及び計算に関する明細書の添付をし、かつ、計算に関する書類を保存する必要があります。
・超過利子額の取扱い
過大支払利子税制の適用により損金不算入とされた超過利子額は、7年間繰り越され、調整所得金額の50%から関連者純支払利子等の額を控除した残額を限度として、損金の額に算入されます。
・過小資本税制との関係
支払利息の損金算入を用いた租税回避行為を制限する規定としては、過小資本税制(資本に比して負債が過大である場合に適用される税制)がありますが、過小資本税制と過大支払利子税制の双方の損金不算入額がある場合には、いずれか多い金額が損金不算入とされます。
・平成31年税制改正の影響
平成31年税制改正において、以下の改正が図られており、2020年4月1日以後に開始する事業年度については以下の適用を受けます。
(改正の内容)
①対象となる支払利子の範囲の拡大
グループ外の国外の第三者への支払利子も対象となり、対象範囲が拡大されます。
②調整所得金額の変更
改正前は受取配当金の益金不算入額等を加算していましたが、改正後は受取配当金の益金不算入額等が加算対象から除かれるため、損金算入限度額は小さくなります。
③損金算入限度額の変更
改正前は調整所得金額の50%でしたが、改正後は20%となるため、損金算入限度額は小さくなります。
なお、当改正に伴い、超過利子額の繰越損金算入限度額も改正前は調整所得金額の50%でしたが、改正後は20%となります。
④適用除外要件の緩和
改正後の適用除外要件は以下の通り緩和されます(以下のいずれか満たす場合に適用除外)。
・その事業年度の関連者純支払利子等の額が2,000万円(改正前は1,000万円)以下である場合
・50%超の資本関係を有する全ての内国法人の対象純支払利子等の額の合計額がこれらの内国法人の調整所得金額の合計額の20%以下である場合
※改正前の要件の1つである「関連者支払利子等の額の合計額が総支払利子等の額の50%以下である場合」という要件は廃止されます。
(ポイント)
・過大支払利子税制とは、関連者間(親子会社間など)での過大な支払利子の支払いにより、所得を減少させる租税回避行為を防止するための制度である。
・関連者等への支払利子等の額(関連者純支払利子等の額)が所得金額(調整所得金額)の50%を超える場合には、その超過額(超過利子額)が損金不算入となる。
・超過利子額は、7年間繰り越され、調整所得金額の50%から関連者純支払利子等の額を控除した残額を限度として、損金の額に算入される。
(留意点)
・諸外国でも日本の過大支払利子税制と同様の税制が設けられている国は多いため、日本の親法人が海外子会社に資金提供を行う場合には、現地国で規制がかかる可能性があるため留意が必要である。
・適用除外基準を充足する場合には過大支払利子税制は適用されないが、適用除外の適用を受けるためには、確定申告書に一定の書面及び計算に関する明細書の添付をし、かつ、計算に関する書類を保存する必要がある。
・2020年4月1日以後に開始する事業年度については平成31年税制改正後の規定が適用される。