【税務の基礎知識(国際税務)】国外転出時課税制度
2022/09/15
【国外転出時課税制度】
最近日本で事業を営まれている方から海外移住のご相談を受けることが増えてきました。
その際に国外転出時課税の適用についてアドバイスさせていただきますが、あまりご存じない方も多いため今回は国外転出時課税制度について簡単にご説明させていただきます。
●国外転出時課税制度とは
国外転出時課税制度とは、国外転出をする一定の居住者が1億円以上の有価証券等、未決済信用取引等又は未決済デリバティブ取引を所有等(所有又は契約の締結)している場合には、国外転出の時に、その対象資産について譲渡又は決済があったものとみなして、対象となる資産の含み益に所得税が課税される制度をいいます。
※非上場株式についても対象となるため、日本で法人形態で事業を営まれている方が海外移住などされる場合には必ず検討が必要となります。
●対象者
国外転出の時において、次の①及び②のいずれにも該当する居住者が、国外転出時課税の対象者となります。
①所有等している対象資産の金額の合計額が1億円以上であること。
②国外転出をする日前10年以内において国内に5年を超えて住所又は居所を有していること
●非上場株式の評価
国外転出時課税における非上場株式の評価は原則所得税法上の時価を用いることとなります。
所得税法上の時価とは相続税贈与税で使用される財産評価通達による評価を準用しますが、一部異なる取扱いになっています。
一般的には相続税贈与税で使用される評価額よりも高額になることが多いことから留意が必要です。
●含み益の算定タイミング
①国外転出後に確定申告書を提出する場合
国外転出の時における次の金額
・有価証券等の価額に相当する金額
・未決済信用取引等又は未決済デリバティブ取引を決済したものとみなして算出した利益の額又は損失の額に相当する金額
②国外転出前に確定申告書を提出する場合
国外転出予定日から起算して3か月前の日(同日後に取得又は契約締結したものはその取得又は契約締結の時)における次の金額
・有価証券等の価額に相当する金額
・未決済信用取引等又は未決済デリバティブ取引を決済したものとみなして算出した利益の額又は損失の額に相当する金額
●納税猶予制度
国外転出の時までに「納税管理人の届出書」を提出した方は、一定の要件の下、国外転出時課税の適用により納付することとなった所得税について、国外転出の日から5年を経過する日まで納税が猶予されます。
●納税猶予制度の適用を受けるための手続
①確定申告時
確定申告期限までに、一定の書類を添付した確定申告書を提出し、かつ、納税猶予分の所得税額及び利子税額に相当する担保を提供する必要があります。
②納税猶予期間中
納税猶予期間中は、毎年年末時点で所有等している適用資産について、「継続適用届出書(適用資産の種類、名称、銘柄別の数量などを記載した書類)」を、その年の確定申告期限までに、 所轄税務署に提出する必要があります。
※提出期限までに提出がなかった場合は、その期限から4か月を経過する日に納税猶予期限が確定し、納税が猶予されていた所得税及び利子税を納付することとなります。
(留意点)
・日本の法人オーナーが海外移住する場合には、その法人の非上場株式も対象資産となるため留意が必要である。
・国外転出時課税における非上場株式の評価は原則所得税法上の時価を用いる。