【コラム】令和2年税制改正の動向
2019/12/04
【令和2年税制改正の動向】
年末に差し掛かり、税制改正の内容が気になる時期になってきました。
12月中旬には税制改正大綱が公表されますが、11月下旬から新聞報道等で一部内容が漏れてきています。
最近の報道では以下のようなものが出てきています。
①金地金を利用した不動産投資の消費税還付スキーム封じ
②海外中古不動産の節税スキーム封じ(損益通算不可)
③海外親族の扶養控除の適用条件の厳格化(年齢制限の設定)
④ソフトバンクグループなどが利用する国際的租税回避スキーム(海外子会社を利用して意図的に赤字を生む方法)への対応
⑤企業版ふるさと納税拡充(5年延長、軽減幅9割に)
⑥未婚のひとり親対策と寡婦控除・寡夫控除の見直し
⑦還付加算金・利子税の利率引下げ
⑧所有者不明土地は使用者が所有者に代わって固定資産税を払う制度に見直し
⑨長期未利用空き地の売却益の控除制度の創設
⑩国外財産情報の開示の強化
⑪電子帳簿保存方法の見直し
納税者不利になる大きな改正は①、②、④といったところでしょうか。
この3つは報道でよく取り上げられていますし、税理士の中でも注目のトピックスになっていますので少し内容を説明します。
「金地金を利用した不動産投資の消費税還付スキーム封じ」
消費税計算上、居住用マンションの購入に係る消費税はほとんど還付されません。
これは、支払った消費税の控除は、売上全体の中の消費税が課される売上の割合分しか控除されない仕組みになっているためです。
通常、居住用マンションの収入の多くは居住者からの賃料収入になりますが、この居住者からの賃料収入には消費税が課されていないため、売上全体の中の消費税が課される売上の割合は僅少になり、結果として居住用マンションの購入に係る消費税はほとんど控除を受けることができないからです。
ただし、居住用マンションの経営以外の事業を行っている事業者の場合で、その他の事業で消費税が課される売上が計上されているのであれば、売上全体の中の消費税が課される売上の割合は高くなるので、結果的に居住用マンションの購入に係る消費税の控除額が増加し、還付額が増えるわけです。
この点に着目し、その他の事業として金地金の売買(金地金の売買には消費税が課されます)を行うことで売上全体の中の消費税が課される売上の割合を上げることで居住用マンションの購入に係る消費税の控除額を増加させ、多額の還付を受ける事業者がいたため、そのような多額還付を規制する改正が盛り込まれるようです。
「海外中古不動産の節税スキーム封じ(損益通算不可)」
中古の不動産は税務上の耐用年数が短くなります。これは新築から一定期間使用しているため、新築の不動産より使える年数が短くなるため当然と言えば当然です。
耐用年数が短いということは毎年計上する減価償却費が相対的に多額になるということです。
毎年の減価償却費が多額になれば不動産事業は赤字になりますが、税務上不動産事業の赤字は他の所得と相殺することができるため、給与所得などがあればこの赤字分だけ所得を相殺し税額が減少することになります。
このような制度を使った節税手法が海外不動産を使った節税スキームですが、主にアメリカの中古不動産などが使われます。
なぜ日本の不動産ではないかというと、日本とアメリカの不動産市況には大きな違いがあるためです。
日本の場合、土地の価額が高いため土地建物では土地のウェイトが高いです。また、日本人は新築が好きなので中古物件は価額が大きく下落しますし、中古市場はさほど活性化していません。
対してアメリカの場合、場所によりますが比較的土地建物では建物のウェイトが高いです。また、アメリカでは中古物件の購入は一般的に行われており、新築物件と比較して中古物件の価額が大きく下落することはなく、中古市場はかなり活性化しています。
このような不動産市況の特性と日本の税制をうまく組み合わせて、所得税の節税を図るスキームが高所得者の間でよく行われていました。
具体的には、建物のウェイトが高い中古不動産を購入し、多額の減価償却費を計上することで、赤字を作り出し給与所得と相殺して毎年の所得税負担を減少させます。その後不動産を売却する際には、大きく値崩れしないため投資額の殆どを回収することができますが、不動産を5年超所有している場合、この際に生じる売却益に対しては日本の所得税では分離課税で20.315%の一定税率が適用されるため、多額の給与所得を得ている方の場合(日本の場合所得税住民税の最高税率は55%です)大きな節税になります。
このスキームは税制改正により封じ込められるという噂が過去からありましたが、令和2年改正によりついに規制する改正が盛り込まれるようです。
「ソフトバンクグループなどが利用する国際的租税回避スキーム(海外子会社を利用して意図的に赤字を生む方法)への対応」
この改正については詳細が分かっていませんが、報道等を見る限りでは、受取配当金の益金不算入規定を利用した法人税の節税スキームへの規制のようです。
日本の法人税法上、一定期間100%資本関係がある子会社から受ける配当金には法人税が課税されません(多くの諸外国でも同様の制度があります)。配当により子会社の純資産は目減りし企業価値は減少することになりますが、日本の制度上はこの企業価値の目減り分だけ親会社が保有する子会社株式の価額は変動しません。
今回問題となっているのは、この制度を利用してグループ全体の課税所得を減少させるスキームのようです。
具体的には、一定期間100%資本関係がある子会社から多額の配当金を受領した後に、関連子会社に当該子会社株式を売却します。
税務上は、受取配当金は非課税のため、収入には法人税が課されませんが、関連子会社に当該子会社株式を売却する際には当該配当分だけ企業価値が目減りしているため売却損が発生し課税所得が減少することになります。
これをグループ内で行えば、グループ全体としては実態に変化がないにも関わらず、株式の売却損分だけ課税所得が減少します。
日本にはグループ法人税制という制度があり、100%グループ法人間の株式譲渡損はグループ外に売却等するまで税務上は認識しないルールがありますが、売却先が海外子会社である場合にはこのルールの対象外であるため、売却損は実現することになります。
詳細が分かっていない為認識が間違っている可能性もありますが、現時点での報道等を見る限り、簡単に言うとこのようなスキームによる節税だったようですが、令和2年改正により規制する改正が盛り込まれるようです。