【節税】タックススペアリングクレジット(みなし外国税額控除)の適用による節税
2019/05/09
【タックススペアリングクレジット(みなし外国税額控除)の適用による節税】
・外国税額控除とは
現行の日本の法人税法では、日本の法人が国外で稼得した所得についても、日本で法人税が課税されます。
つまり、国内外を問わず、日本法人が営利活動により稼得した所得は、全て日本での法人税申告の際に含める必要があるということです。
この際に、日本国外での営利活動により稼得した所得については、その現地国でも課税されることが一般的ですが、そのような場合には日本国外での営利活動により稼得した所得分については二重課税がなされることになります。
このような国際的な二重課税を調整するために、一定の要件のもと日本の法人が現地国で納付した外国税額を日本で納付する法人税から差し引くことができる制度が設けられており、この制度のことを「外国税額控除」といいます。
・タックススペアリングクレジット(みなし外国税額控除)とは
タックススペアリングクレジット(みなし外国税額控除)とは、現地国において実際には納付していない外国税額を、納付したものとみなして、日本での外国税額控除の計算上、控除の対象となる外国税額に含めることができる制度です。
通常の外国税額控除は現地国で納付した外国税額を日本の法人税から差し引く制度でるため、納税国が変わるだけで、全世界での納税額が減少するというものではありません。
対して、タックススペアリングクレジット(みなし外国税額控除)は現地国で納付していないにも関わらず、現地国で納付したものとみなして日本の法人税から差し引く制度ですので、結果として全世界での納税額が減少することになります。
つまり、制度上認められた節税方法ということになります。
・タックススペアリングクレジット(みなし外国税額控除)の制度趣旨
発展途上国などでは外資の投資を呼び込むために優遇税制を設けていることがありますが、日本法人がその国に投資を行う場合、その国で稼得した所得についての現地国での課税は優遇税制の適用の恩恵を受けることができるものの、最終的にその国で稼得した所得は日本でも課税されることから、日本法人は結果的に現地国での優遇税制のメリットを享受することができず、その国に投資を行うことで得られる税務上のインセンティブがなくなってしまうことになります。
このような状況を回避し、その国への投資を行うことで得られる税務上のインセンティブ、つまり、税制優遇の効果を確保するためにタックススペアリングクレジット(みなし外国税額控除)という制度が設けられました。
・タックススペアリングクレジット(みなし外国税額控除)の適用要件
タックススペアリングクレジット(みなし外国税額控除)は以下のいずれにも該当する場合にのみ適用が可能です。
①現地国で税制上の優遇税制が設けられていること
②現地国と日本との間の租税条約においてにみなし外国税額控除の規定を有する租税条約が締結されていること
なお、現時点で日本との間の租税条約において有効なみなし外国税額控除の規定ある国はザンビア、スリランカ、タイ、中国、バングラディシュ、ブラジルの6カ国です。
みなし外国税額控除の規定は縮減傾向にあるため、適用する際には最新の租税条約の確認が必要となります。
・中国子会社がある場合などは要注意
あくまで個人的私見ですが、タックススペアリングクレジットの適用が一番多いのは、中国法人からの配当や中国子法人から使用料(ロイヤリティ)を受け取る場合だと思います(配当について外国子会社配当益金不算入の適用がある場合には外国税額控除の適用はありませんので当然にタックススペアリングクレジット(みなし外国税額控除)の適用もありません。)。
中国企業が配当や使用料(ロイヤリティ)を受け取る場合、中国の現地法では20%の源泉徴収がなされます。
しかし、受け取る法人が日本法人である場合には、日中租税条約の適用があるため源泉徴収額は10%に軽減されます(租税条約は現地法より優先されます。)。つまり現地国で課税するのは10%分のみということになります。
そして、日中租税条約には配当や使用料(ロイヤリティ)についてみなし外国税額の規定が設けられているため、日本での外国税額控除の計算においては、20%を中国で納付したものとみなして計算を行うことができます。
この結果、みなし納付となる10%部分については、みなし外国税額控除の適用により単純に税負担が軽減することになります。
・タックススペアリングクレジット(みなし外国税額控除)の節税効果
このように、タックススペアリングクレジット(みなし外国税額控除)は政策的観点から制度上認められた節税方法です。
適用方法もそれほど難しくはありませんので、適用がある法人は是非適用をして税負担を軽減させましょう。
ただし、タックススペアリングクレジットは国際税務の中での特殊な論点であり、実務経験がある専門家はあまりいないのが実情です。
実際に、中国子法人から受けた配当について、タックススペアリングクレジットの適用を失念していた税理士が、顧問先から損害賠償請求を受けた事例もあります。
顧問税理士がいる法人においても、国子法人から配当や使用料(ロイヤリティ)を受け取っている法人様については、一度、国際税務の実務経験が豊富な税理士に相談されることをお勧めします。
(ポイント)
・タックススペアリングクレジット(みなし外国税額控除)とは、現地国において実際には納付していない外国税額を、納付したものとみなして、日本での外国税額控除の計算上、控除の対象となる外国税額に含めることができる制度である。
・中国法人から配当(配当について外国子会社配当益金不算入の適用がある場合には外国税額控除の適用はありませんので当然にタックススペアリングクレジット(みなし外国税額控除)の適用もありません)や使用料(ロイヤリティ)を受け取っている法人は適用がある(控除限度額が少ない場合には結果的に控除が受けられない場合があります。)。
(留意点)
・タックススペアリングクレジット(みなし外国税額控除)の適用は、現地国と日本との間の租税条約においてにみなし外国税額控除の規定を有する租税条約が締結されていることが要件とされている。
・国際税務は実務経験がある専門家はそれほど多くはないことに加え、タックススペアリングクレジット(みなし外国税額控除)は国際税務の中での特殊論点であるため、実務経験がある専門家は少ない。